出来ない不安,出来た喜び 2018年7月
40歳を前に,自動車免許をとろうと考え,自動車学校を訪れた時の事です。申込書に必要事項を記入して窓口に持っていくと,「ちょうどあいているので,これから自動車を実際に運転しましょう。」と声をかけられました。突然の事に,心の整理もつかぬまま自動車の運転席に座りました。ペダルは右がブレーキで左がアクセル,右折する場合はウィンカーを上に左折する場合は下に,と最低限の事を教えられていざ発車となりました。練習場でそろそろと運転し始め交差点に差し掛かった時,左右がわからなくなってしまいました。「左折ですよ,左に曲がりますよ。」と教官に言われているのですが,出してしまうのは右折ウィンカー。教官から「だから,右は…」と,何度教えられても頭と手と足はばらばらの行動をとっていました。
翻ってみると,小学生は学習時間などにこうした経験を大なり小なりしているのではないかと思います。説明を受け,わかった気持ちになって取り組んでみると,何をすればいいか見当がつかなくなっているのです。きちんと聞いていたつもりなのに,出来ないのです。「もう一度教えてください。」と,勇気を振り絞りながら教師に説明を求め,再度課題に向き合うことを続けます。繰り返しやっても出来ない時,途方に暮れ時に諦めてしまうことがあるかもしれません。根気強く何度も何度もやり続け,ようやくできるようになることもあるかもしれません。出来なくてもいいとは思っていないけれど,出来るようになりたいと思っているけれど,うまくいかない…そんな,もやもやした気持ちを抱えながら授業に取り組む経験を重ねている姿を思うと,一人一人の子供が愛おしくなります。
例えば,ノートをとることは大人にとっては簡単な作業ですが,しっかりとノートをとれるようになるためには積み重ねが必要です。黒板に書かれた字や数式を書き写すことが,どうして難しいのだろうと疑問に思われるかもしれません。1マスに1字を書く,行をそろえる,…書き写すルールを身に付けていく過程は根気が必要です。例えばリコーダーを吹く事,例えば,例えば…
出来なかったことを出来るようにするまで,諦めずに取り組むためには周りの大人の励ましが必要でしょう。可能性を秘めた子供たちの,伸びようとする芽を摘まないために,努力を認め,寄り添い,忍耐と寛容さをもって接していくことが,大人の私達に求められているのでしょう。
子供は,出来ないという不安が解消された時,喜びに顔を輝かせます。美しい瞬間です。
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