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校長メッセージ

聖ドミニコ学院小学校
校長

土井 智子

聖ドミニコ学院小学校 校長 土井 智子

靴紐を結ぶ 2023年9月

夏休みが終わり、元気に登校してきた子供たちを見てほっとしています。長期の休みに入る前に毎回繰り返し伝える言葉は「事故無く、怪我無く、元気な毎日を過ごす」ことです。久しぶりに会う友達と楽しそうに会話をしている子供たちの様子を見ていると、大きな事故やけがに遭うこともなくこの夏を過ごしたことがわかります。当たり前のことのようですが、事故や怪我を防ぐためには小さなことに気を配る慎重さが求められます。もちろん、どれだけ注意していても避けられない不幸な不慮の事故に見舞われるケースはありますが、日常生活の中で起こる怪我の殆どは、ちょっとした油断が招くことが多いものです。恥を忍び自戒を込めて、この夏に仕出かした失敗談をお伝えしましょう。

 

その日は、少し遅くなっていたこともあり気が急いて( せ)いました。バスを降りてふと目を上げると、歩行者側の信号が青に変わろうとしていました。片側4車線の広い道路です。渡り切りたい思いで小走りになって横断歩道に向かった時、左側の靴紐がほどけかかっていることに気付きました。一瞬靴紐を結びなおそうかと考えましたが、それでは信号が変わってしまいます。渡り切ってから結びなおそうと判断して、そのまま小走りになっている足を留めずに横断歩道の真ん中辺りまで来た時のことです。信号の表示を見て少しゆっくり歩こうとした瞬間、大きくよろめき左顔面から地面にたたきつけられました。あまりに激しく転んだためか、周りにいた見知らぬ人が駆け寄り、私の腕を抱えて起き上がるのを助け、横断歩道を渡らせてくれました。左目の瞼を切ったため、出血がひどく顔を上げられないでいると、ハンカチを差し出してくれる方や、近くのコンビニでウェットティッシュを買い求めて差し出してくれる方がいました。忙しい時間帯で、それぞれ急いでいたにもかかわらず、見ず知らずの私のために親身になって尽くしてくれたのです。恐縮する私に「気にしないでください。次に私が転んでいたらその時に助けてください。」と言葉をかけ、迎えが来るまでの時間を付き添ってくれた方もいました。その親切な行為を忘れることはできません。

 

学校で、子供たちの靴紐がほどけているのを見付けると「危ないから結びなさい」といつも注意していました。ほどけたままでいることが、危ないことを良く知っているつもりでした。けれどもちょっとした瞬間に「知っていること」を自分の行動に結びつけることができませんでした。その判断の誤りは、信号を渡りたいという欲求が勝ったことによります。人間は目先の利益を優先しがちであるといいますが、日常のほんの小さな出来事でさえ、正しい選択をすることは難しいものです。どれだけ失敗を繰り返しても、また同じように判断ミスを犯してしまいます。その不完全さ、弱さを自覚して生きていかなければならないのでしょう。病気の時、人は自分の健康に気を配ります。足を怪我すれば、足をいたわります。胃の調子が悪ければ、消化の良いものを食べるようにします。同じように自分が判断ミスを犯しやすいと気付けば、慎重な行動や言葉遣いをするように気を付けるでしょう。

気付かずにいた己の慢心を指摘された出来事になりました。これから、子供たちに「靴ひもを結びなさい」と声を掛ける時には、いつも自分は判断ミスをしていないかと問い直し戒める機会になりそうです。

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