渡辺和子氏(シスター渡辺)から学ぶこと 2024年11月
世の中に面倒なことがあふれています。色々な物事に対して「面倒だ、面倒くさい」と思うのは万国共通と言えそうで、これは「面倒くさい」という表現が各国の言葉にあることからも推測できます。大人ばかりではなく、子供の世界でも「面倒だ」と思うことはたくさんあるようです。私の好きな絵本の「ゆうちゃんとめんどくさいサイ」は、面倒くさいがテーマになっているお話です。服を着替えるのも歯を磨くのも「やぁだよ、めんどくさい」と言ってやろうとしないゆうちゃんが、何にもしない“めんどくさいサイ”の子になっていくユーモアにあふれる作品です。主人公のゆうちゃんの「やぁだよ、めんどくさい」に共感する子供は多いだろうなと思います。ただ、学齢期に入った子供たちは「面倒くさい」という言葉を遠慮なく口にするのは憚れるようで、学校生活の中で「面倒くさい」という言葉を聞くことは殆どありません。心で思っても、口には出さないという慎みが育っているのかもしれません。それでも、面倒くさい気持ちは押さえられず、やるべきことを後回しにしたり、作業をした後の片づけが雑になったりあるいはしなかったりということがあり、教師から指導されている場面に遭遇することがあります。
ノートルダム清心女子大学で長らく学長を務めたシスター、渡辺和子氏はその著書『面倒だから、しよう』で次のように私たちに語り掛けています。
人には皆、苦労を厭い、面倒なことを避け、自分中心に生きようとする傾向があり、私もその例外ではありません。しかし、人間らしく、よりよく生きるということは、このような自然的傾向と闘うことなのです。したくても、してはいけないことはしない。したくなくても、すべきことをする。自由の行使こそは、人間の主体性の発現にほかなりません。
(中略)よりよい選択ができる人たちを育てたい。安易に流れやすい自分と絶えず闘い、面倒でもする人、倒れてもまた起き上がって生きてゆく人を育てたいのです。
渡辺和子氏の言葉に接すると、自分自身を振り返り情けない気持ちになりながら、それでも前に進む勇気が湧いてくるから不思議です。渡辺和子氏は「面倒だ」と思うことを否定しません。思ったことに流され、やらないことを戒めているだけです。
損得勘定と効率重視だけで動くことは、人間性を失っていくことにつながっていくのではないと思います。便利な事、手間をかけないことを最善とする価値観では、人を育てることはなかなか難しいと言えるでしょう。面倒なことに手間暇惜しまず取り組むことで、気づきが生まれ、大切にする感覚を養うことができます。自分の心の中にある隙をつかれないように、身の回りのこまごました事柄に注意をはらい、丁寧に対応する習慣を身につけていきたいものです。『面倒だから、しよう』渡辺和子氏が語り掛けている言葉を受けて、私たちも自分自身を振り返る時をつくりたいものです。
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