学ぶということ 2021年11月
「そうしゅんののはら」「いちまんりをはしる」「はるにじょうきょうする」「いんりょくがはたらく」…どれも2年生の漢字練習の問題です。平仮名だけで書かれていると、意味がつかみにくい文章も、漢字を使うことでわかりやすくなります。さてこの漢字、1年生で80字、2年生で160字の新出漢字がありますから、常用漢字2136字中の約1割を2年生までに習うことになります。ちなみに小学校6年間で学ぶ教育漢字の総数は現在「1026字」です。さて、その1割の漢字を習うだけで、ずいぶん広がりを見せるのがわかりますが、同時に子供たちは、語彙力を養うことが求められます。例えば、先に引用した漢字の「早春」「一万里」「上京」「引力」は、2年生の日常生活で出てくる言葉ではありません。大人は漢字を見ただけで意味も分かりますが、子供たちは漢字と共にその意味や用法を学びます。根気のいる活動です。
2年生の担任から聞いた話です。家に帰って宿題のプリントを見て、「漢字が書けない。難しくてわからない。」と言った子供がいたそうです。問題の漢字は「いんりょく」でした。ニュートンという名前が頭に浮かび、リンゴが木から落ちるシーンを思い浮かべる方も多いでしょうが、子供にとっては初めて出会う言葉です。「引」はインとも読むから、知っている字を当てはめて書けばいいと考えがちですが、意味が分からないと漢字が書けないといった感覚は、とてもピュアだと思いました。「引」という字が難しいといったわけではなく、「引力」という言葉が難しいと感じたのです。言葉に対して、しっかりと向き合っているのがわかります。自分自身の学童期を振り返ると、恥ずかしいことに漢字学習はただノートを埋めていけば良いと思っていたので、意味が分からなければ書けないとした姿に小さな感銘を覚えました。
学ぶということは、覚えこむこととは全くちがうことだ。学ぶとは、いつでも、何かがはじまることで、終わることのない過程に一歩 ふみこむことである。一片の知識が学習の成果であるならば、それは何も学ばないでしまったことではないか。学んだことの証しは、ただ一つで、何かがかわることである。
これは、1970年代に宮城教育大学で学長をされた林 竹二先生の言葉です。インターネットで物事が簡単に検索できるようになり、聞きかじった情報でわかったつもりになっている私たちに「学ぶこと」の意味を教えています。学びの中に、効率を求めてはいないか、簡単に答えを示して子供に考えさせることを阻んでいないか、小さな疑問を大切にしているか… 「いんりょく」の子供の思いに真摯に向き合いたいと思っています。
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