信じる 2018年10月
学校生活で,子供たちは色々な表情をみせています。喜びであったり,小さな悲しみであったり,不安であったり,期待であったり……その時々に見せる表情は美しく,真剣なまなざしに出会うと心が洗われる思いがします。
A君は,スクールバスで登校することが多いのですが,その日はお父さんに学校まで車で送ってもらえました。もう少しで学校に着くという頃になって,水泳の用具を忘れたことに気付きました。校外で行われる水泳教室のテストの日でした。A君の家は,学校から距離があります。仕事に向かうお父さんには予定があった事でしょう。でも学校に着くなりA君は,水着を忘れたけれどお父さんが届けてくれるかもしれないと担任に伝えました。A君は,お父さんが必ず届けてくれると信じて待っていました。お父さんが見事にその期待に応えて駐車場に着いた時,事情を知っている教師も喜びました。
日常生活の中で疑いもなく信じることは,成長するにしたがって,難しくなります。うまくいかなかった場合「はじめからそうなると思っていた」とつぶやいたり,裏切られることを恐れて相手の厚意に疑念を抱いたり,自分が傷つかないためにたくさんの鎧を身にまといます。鎧の厚さは,経験や思考傾向によって個人差がありますが,鎧を持たずに人と接することは難しいものです。あるいは,信頼することが相手の負担につながるのではないかという懸念から,あえて距離をおこうとすることもあるでしょう。
順風満帆だと過ごしていた時に,想像もしなかった局面に立たされる事があります。理不尽と思える出来事を経験することもあります。当たり前だと思っていた日常が,かけがえのないものだったと失ってから思うことさえあります。
様々な葛藤を抱えて生きていく中で,自分の弱さに向き合う時,自分の力だけで生きているわけではない,支えられて生きているのだと気付かされます。そして自分を越えた絶対なるものの存在に思いが向かう時があります。自分が知り得た知識で云々するのではなく,また社会規範や社会の価値判断ではなく,正しい事とは何か,どう生きるべきかを教えてくれる存在に思いが向かうのです。親に対する絶対的な信頼,必ず間に合うと信じて待つことのできる信頼感をもった少年のように,ゆるぎない信頼感を絶対なるものに向けることができたとき,私達は起きている事象だけに目をとられることなく,自分の進むべき道,とるべき行動が見えてくるのかもしれません。
校長メッセージ バックナンバー
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- 児童書によせて
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