面倒な事 2023年2月
「○○さん、スクールバスのチェックがありません。スクールバスが発車します。すぐに確認に来てください。」放送の呼び出しに慌てて、子供が駆け下りてきます。「ごめんなさい。今日は乗りません。」スクールバスの乗降口で、名簿に沿って乗車を確認している教師が「みんな待っていたのよ。必ずバスチェックをするように!」と注意します。実は同じような風景が、下校スクールバス発車の時間帯に繰り返されています。本校では6台のスクールバスを運行していて、4年生以上は自分でどのバスに乗車して下校するかを名簿にチェックするようにしています。登校して、すぐにチェックに向かえばいいのですが、今できる事をつい後回しにしてしまうのは大人も子供も同じです。後でチェックしようと思ったけれど、ほかのことに忙しくなり(それは、外遊びであったり係りの仕事であったり、子供は子供なりの事情がたくさんあります)つい忘れて、呼び出し放送に慌てるのです。『ICT化が進む中でなんとレトロな方法を』と呆れられそうですが、不便な方法は子供たちに自覚と責任感を育てるのに一役買っているように思います。
便利であること、合理的であること、スピーディーであること、間違いが少ないこと…これらは現代社会の中で当たり前のように求められています。大人の社会であれば、それは良いことでしょうが、子供の社会はそんなに簡単に割り切れるものではありません。一見して無駄に思える事、手間暇のかかる事、順序を踏んで一つひとつ取り組んでいくことを通して、子供たちは生きる力を身につけていきます。便利なことに囲まれていては、工夫する力を培うことが出来ません。面倒くさい事柄をなくそうとすることが、発明につながるとも言われています。子供なりに知恵を働かせる場面があれば、それは楽しいことです。互いに協力して、不便を便利にしていくことの方が、便利な環境に最初から置かれるよりずっと良いのです。また、自分の怠慢が相手に迷惑をかけることがあるという事柄も、不便な事柄を通して知ることの方が多いでしょう。朝、バスチェックを疎かにすることが、相手を待たせる結果や定時に発車することを阻害することにつながることを知ります。面倒くさいことでもルーティーンとしてやり続けることが大切だと気付くことは、その後の人生を生きる上での大切な知恵になります。
渡辺和子氏の著書『面倒だから、しよう』を開いてみると、珠玉の言葉が溢れ出てきます。「小さな事こそ、心を込めて、丁寧に」「自分の怠け心と戦った時に初めて、本当の美しさ、自分らしさが生まれてくる」と語りかけている文章に出会うと、手をとめて、足をとめて、自分自身を振り返ろうという気持ちになります。私たちの目の前には、楽しそうな事、面白そうなことなど興味を引くことがたくさんあり、やらなければならないことはつまらないことのようで色あせて見えます。続けることには忍耐が求められますが、しなければならないことに生真面目に取り組むということは、日常を大切にすることにつながっています。面倒くさいという気持ちに負けずに、一つひとつの事柄に丁寧に向き合い、毎日続けることを子供と共に心掛けていきたいと思います。
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